慶大外科と創傷治癒研究−電撃症から消化管粘膜修復まで
慶應義塾大学外科 大谷 吉秀
 昭和46年(1971年)7月、慶大耳鼻咽喉科鈴木安恒先生と病理学細田泰弘先生そして東京電力病院外科藤城保男先生らが始められた創傷治癒に関する勉強会が本学会のルーツです。当時の研究会プログラムを別表にお示しします。第2回から本研究会の前代表世話人をされていた石引久彌先生(当時川崎市立川崎病院手術部)が参加されています。演題名をみると時代の変遷を感じますが、現在でも興味を引くような斬新なテーマも散見されます。その後、塩谷信幸先生(北里大学)や藤野豊美先生(慶大)など形成外科の先生方の参加を得て、本研究会は30年余りの歴史を歩むこととなりました。平成12年12月の第30回総会(恩田昌彦当番世話人)から研究会が発展して学会となり、今年で4年目を迎えようとしています。
 日本創傷治癒学会は米国のThe Wound Healing Society、ヨーロッパのThe European Tissue Repair Society、オーストラリアのThe Australian Wound Management Associationなどと良好な連携関係を保ちながら、円滑な活動を行っていますが、とくに米国の創傷治癒研究者とのパイプ役を果たされたのがCalifornia 州立大学San Francisco 校のThomas K. Hunt教授であります。これまで何回も来日されていますが、第20回研究会(徳島)に来日された際、世話人会の席上、日本創傷治癒研究会の英文名 The Japanese Society for Wound Healing を提案され、今日の公式名称となっています。本誌WRRがvolume 12であることからお分かりのとおり、米国に創傷治癒の学術団体が発足して10数年であり、33年の歴史がある本学会がより長い歴史の上に成り立っていることは大いに誇れることと思います。WRRの出版社がMosbyからBlackwellに代わり、前後して本研究会は学会に発展しました。Blackwell 社の日本での市場拡大の施策と本学会の活性化の方向性が合致して、広告を含め12ページのニュースレターがWRR誌に毎号掲載されるようになり、今日の編集の形が整いました。
 さて、慶大外科では、電撃症(藤城保男先生)、感染症(石引久彌先生)、熱傷・皮膚移植(相川直樹先生)、消化管吻合・微小循環(北島政樹先生・現理事長)などに関する創傷治癒研究が代々行われています。また、食道グループ(安藤暢敏先生・現東京歯科市川病院外科)は、阿部令彦先生指導のもとで、食道切除後の再建胃管における組織酸素分圧の測定や培養食道上皮を用いた人工食道の研究を行ってきました。
 ここ数年、私どもは細胞外マトリックスの代謝からみた消化性潰瘍の病態や虚血再灌流障害、消化管の粘膜障害に対する創傷治癒機転に関する研究を進めています。とくに潰瘍の発生要因については、以前から攻撃因子と防御因子のうち、攻撃因子の方向へバランスが崩れると粘膜損傷が形成されると概念的に理解されてきました。それに加え、私どもは消化管粘膜の損傷に対して同時に進行する修復過程が傷害されることにより潰瘍形成に至るという考え方を提唱し、動物実験でその点を明らかにしてきました。胃グループの吉田 昌先生が中心になって、若い先生たちを指導しています。これらの研究を通じて創傷治癒機転の障害が人体の恒常性の維持にどのように影響し、疾患の病態生理に関わっているかの一端を理解することができます。これからも、教室の若い先生たちの新鮮な興味を引きながら、外科学の礎ともいうべき創傷治癒の研究を続けていきたいと考えています。

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