東邦大学病理学教室における創傷治癒研究の紹介
東邦大学病理学教室 赤坂 喜清

 創傷治癒は医学生にとって最初に学ぶべき病理学総論に属しており、炎症学とともに重要な学問と位置づけられている。従来から病理学の教科書では創傷治癒学が臓器組織の欠損が治癒に向かう現象として捉えられてきたが、最近では組織修復・再生の問題が重要視されてきている。我々病理学者が創傷治癒期で観察する多くのものは肉芽組織であり、顕微鏡では毛細血管の旺盛な新生と線維芽細胞の活発な増殖を目にする。東邦病理における創傷治癒の研究は現教授の石井壽晴先生(現理事)が東京医科大学病理学第一講座に在籍された頃よりあしかけ16年に及ぶ。その研究の発端は肉芽組織における血管増生の研究であった。石井壽晴先生は慶應義塾大医学部病理に在籍中から血管病理学を専攻し、ヒトにおける種々の血管走行とその病態関与を解析してきた。その後東京医科大学病理学第一講座に移られてから東京医科大学八王子医療センター病院病理の木口英子先生(現済生会神奈川県病院病院病理)とともに創傷治癒期の血管増生の問題に取り組み、ラット腹部の島状皮弁を用いた創傷治癒モデルを作成した(第25回創傷治癒研究会学会奨励賞受賞)。今日この研究方法を用い血管増生因子による肉芽組織における血管新生のメカニズムを生体・創傷側から比較検討が進んでいる。さらに東京医科大学八王子医療センター病院病理の石川由起雄先生(現東邦大学病理学教室)や東京医科大学形成外科の犬塚 潔先生が加わり病的な瘢痕形成の研究が開始された。ここでは肥厚性瘢痕やケロイドの臨床病理学的観察とともに種々の細胞外マトリックス代謝動態をin vivoで解析してきた。そして基質間相互作用による支持組織移動等の問題を包括することから、後に創傷治癒修復過程における再構築の問題へと発展する。

 石井先生と石川先生が東邦大学病理学教室に移られてからも上記の研究は引き継がれている。石川先生は解析の場を梗塞後の心筋組織の細胞外マトリックス発現動態に移し、梗塞後の心筋組織の組織再構築の機構解明に取り組んでいる。同氏はまた炎症性反応として惹起されるPLA2分子の梗塞性病変への関与に着目し、心筋梗塞治癒過程における同分子の積極的関与を明らかにしようとしている。肉芽組織は瘢痕組織に置換される過程で線維芽細胞や炎症細胞が消失する。この過程で生理的細胞死すなわちアポトーシスが関与していることが最近分かってきた。筆者は肥厚性瘢痕やケロイドにおけるアポトーシス発現異常の解析や外来性サイトカイン投与後のアポトーシス誘導による瘢痕修復過程の解析とその人為的改善の試みを動物実験から検討している(札幌医科大皮膚科小野一郎先生との共同研究)。

 創傷治癒過程は局所的ながらも細胞の運動、増殖と分化等の過程が巧みに制御され、発生過程における器官構築と極めて似ている。したがって創傷治癒における組織再形成のメカニズムを解析することは、組織再生に関わる重要な細胞性・液性因子の役割を解明し、その新たな知見は再生医療法の開発に寄与すると思われる。このような観点に立ち当教室では組織・細胞・分子生物学的手法を駆使し、若い先生たちと一緒に形態学と分子生物学に基づいた創傷治癒学の研究を続けていきたいと考えている。

閉じる