JSWH NEWS LETTER 2004.12 No.24
金沢大学大学院がん局所制御学における
再生医療への取り組み

金沢大学大学院医学研究科 がん局所制御学
(消化器・内分泌・移植再生外科)
三輪 晃一
文責:高村 博之

 この度、金沢で第34回目の伝統ある創傷治癒学会を開催できました事を、医局員一同光栄に存じ上げます。

 当教室は三輪晃一を中心に、胃癌や膵癌などの各種消化器癌の外科治療を初め、乳癌や甲状腺癌などの外科治療や肝臓移植などの臨床研究に邁進しております。 創傷治癒に深く関係いたします臨床研究内容といたしましては、大腸肛門病を専門とする当科の西村医師と看護師で構成されたスペシャルチームによるストーマケアーや褥瘡予防のためのスキンケアーが上げられます。また、 乳癌術後のより美しい創傷治癒を目指した創管理についても精力的に取り組んでおります。これらは多くの医療機関で日常的に行なわれている内容と存じますので、今回は再生医療という点で創傷治癒にも深く関連するであろう研究テーマについてご報告させていただきます。創傷治癒の領域では皮膚などの再生医療が注目されておりますが、我々も胚性幹細胞(ES細胞)の研究のパイオニアである当大学院再生分子医学講座の横田教授や小出助教授の協力を仰ぎ、 再生医学の研究に着手しております。横田教授らの研究室ではマウスの胚性幹細胞の未分化状態維持機構や分化制御に関わるシグナル伝達に関する研究を精力的に行なっておりますが、 当研究室では胚性幹細胞を再生医療の細胞供給源と捕らえ、 様々な条件で分化させることにより、 細胞移植に有用な細胞を作り出すことができないかどうかを模索しております。特にES細胞からのインシュリン産生細胞の分化に力点を置き、究極的には膵β細胞の分化作成を成し遂げたいと考え、 日々努力を重ねております。 ES細胞からmatureなインシュリン産生細胞を作成できれば、膵臓移植やラ島移植の適応疾患である I 型糖尿病の患者様のみならず、多くの糖尿病の患者様に福音をもたらすことは間違いありません。世界中の研究者がそれに挑んでおりますが、未だ臨床に応用できるだけの成果は報告されておりません。現在、私どもはインシュリン遺伝子プロモーター領域を組み込んだGFP発現ベクターなどをマウスのES細胞に transfection し、 どのような培養条件下でインシュリン産生細胞がより効率的に作成できるかを探索しております。マウスES細胞からのインシュリン産生細胞への分化の研究ではインシュリン II 遺伝子の発現を確認できたという報告が中心で、 matureな膵β細胞のように同時にインシュリンI遺伝子の発現も確認できたという報告はほとんど見られません。 そこで我々はインシュリンIIのみならずインシュリンI遺伝子の発現が獲得されるような培養環境を明らかにする事で、ES細胞から臨床応用可能なインシュリン産生細胞への効率的な分化を成し遂げる近道に繋がるのではないかと考え、インシュリン I 遺伝子の発現誘導にも注目して実験を行なっております。その効率は未だ十分とは言えませんが、 ES細胞をある環境下で分化させれば、インシュリン I 遺伝子の発現が認められることを確認いたしました(図1)。今後は培養条件を様々に変化させ、効率化を図っていきたいと考えておりますが、 超えなければならないハードルはきわめて高いといわざるを得ません。 また現在、 膵β細胞の初期遺伝子であるPDX-1を常時発現するES細胞を作成し、効率化に繋がる培養条件の設定にも取り組んでおります(図2)。 ご承知の通り、試験管内で哺乳類のES細胞から効率よく内胚葉系の細胞を作り出す事には未だ成功しておりませんが、この事が可能になれば、ドナー不足に悩む移植医療にとっては画期的なことであり、大いなる可能性を秘めた将来性豊かな研究分野と捉えております。同様の研究に取り組んでいらっしゃる諸先生方のご指導を賜れればと願っております。 学会員の皆様方のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます。


図1. マウス ES 細胞由来のInsulin I 遺伝子発現細胞(GFP蛍光発現)


図2. PDX-1 遺伝子を常時発現させたマウスES 細胞由来のInsulin I 遺伝子発現細胞 (GFP蛍光発現)

 
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