長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
発生分化機能再建学(形成外科)における私の研究変遷と現況

秋田 定伯  

 当教室での研究は、1960年代から、広範囲熱傷の際の同種皮膚移植の一時的生着過程、及び関連した移植免疫を中心とした研究体制をとっていましたが、1990年代に入り、先天異常の中でも頭蓋顎顔面領域の発生機序(口唇裂、口蓋裂、頭蓋早期癒合症など)および治療法の検討、頭蓋顔面領域への骨移植の効果検討、更には手指再接着時における骨髄静脈灌流の検討などを経て、1996年頃より、分子生物学研究が加わりました。これにより、先天異常・創傷治癒・皮弁生理・腫瘍など、当科で取り扱う疾患の病態解明・治療方法を細胞・分子レベルで行うこととなりました。

 私自身は1993年から1996年米国ロスアンジェルスのCedars-Sinai Medical Center(循環器、肝疾患の分野での名声が高い)(特に循環器でのSwan-GanzのカテーテルのDr.SwanとDr.Ganz、心不全分類のForrester分類のDr.Forrester、肝移植ではAchilles A. Demetriouが有名です)でresearch fellow 及びscientistとして、大学院時代からの研究テーマの発展を期するべく、具体的には、トランスジェニック・マウス及びノックアウト・マウスを用いた生体分子生物学を研究しました。現地での研究テーマは、ボス(Shlomo Melmed先生、内分泌学の中でも下垂体分野での第一人者で、現在UCLAのSenior Vice Presidentを兼任している)のもとで、1993年当時注目され始めた、白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor, LIF)の下垂体特異的発現マウスの作成・発現・制御と反対にLIFノックアウトマウスでの下垂体ホルモン発現・分泌の研究を行いました(文献:1−4)。一見、診療科としての形成外科と全く関係の無い研究と当時の私自身でさえ考えておりましたが、帰国後から現在までの研究内容と照らし合わせた時に、非常に貴重な経験を積ませていただけたのではないと考えております。つまり、生体内の内分泌作用、標的組織・器官でのantocrine/paracrineシステムを介したタンパクの発現、転写調節様式、細胞内への各種情報伝達機構、細胞の増殖と分化のメカニズムなど、どれもが現在も必要不可欠なリサーチの検討事項です。また、これらscientificな事項のみではなく、全く異分野の研究者たちと、開放的な雰囲気の中で大いに討論する習慣が身に付き、下手なりにも英語で思考し、発表することがあまり億劫にならなくなりました。更に、研究生活の公私を通じて、世界中の人たち(研究に関する人たちばかりではなく、それ以外でも)と交流し、現在にも一部継続しています。

 1996年からは、形成外科で、主に、LIFの発現制御を移植免疫・組織(頭蓋骨)発現などの検討を行い、主にサイトカインを用いた頭蓋骨・皮弁など局所での発現を研究しておりましたが(文献:5−8、12)、2000年頃からの体性幹細胞の分離と研究が世界的に進むにつれ、当科でもヒト骨髄由来間葉系幹細胞を用いた研究を開始しました。特にヒト骨髄由来間葉系幹細胞(human mesenchymal stem cell, hMSC)は非常に特異的な細胞性質を持ち、細胞を用いた再生医学に充分応用可能であることがわかり、皮膚軟部組織欠損モデル、骨再生モデルなどで有効であることがわかってきました(文献:9−11、13−15)。


2005年3月 Beverwijk, NetherlandsでのRed Cross Hospitalでの招待講演の後、左から秋田、Middelkoop先生(2004年度ヨーロッパ創傷治癒学会(ETRS)会長)、秋野、オランダ熱傷財団事務所が後方の建物(Red Cross Hospitalは徒歩数分の距離にある)

 研究体制としては、形成外科の教室員の博士論文研究を中心とし、2002年から大学院 大講座制へ移行したことから、同じ講座の発生分化機能再建学(神経解剖)の秋野先生とも共同研究体制をとっています。秋野先生は、Cedars-Sinai Medical Centerでの同窓であります。更にわれわれのmentorとして、共に大学院時代からお世話になった山下俊一教授(長崎大学 原研細胞、 現在 世界保健機構(WHO)医療専門官として出向中、写真参考)がいます。


Red Cross Hospitalでの講演会の案内板


2005年3月 GenevaのWHO本部会議場での特別講演の後、左から秋野、秋田、山下教授(現WHO医療専門官)

 当科での研究は、形成外科の診療科としての性格と同じように、多くの診療科・研究科にまたがる内容で創傷治癒学を進めています。これは、「創傷」及び「創傷治癒機転」の研究内容が、広く・深く横断的であり、また、いかなるヒトも「ケガ」をすることからも基本的かつ重要な研究課題であることと診療内容が類似しています。このような形成外科の特徴からも、今後は多くの共同研究者・施設と共同研究を展開する予定です。


WHO講演会の案内板


講演の後、WHO総長(Director-General)のDr. Lee Jong-Wookから部屋に招待されたときの様子、中央がDr. Lee。講演の内容のほか、昨年のTsunami disasterについてのWHOの対応を話していただきました。

 過去40余年の長崎大学形成外科学教室の臨床治験の歴史は、再建学と先天異常学の進歩と共にありました。今後は、再生医学を取り入れた、「形成再生学」の発展に寄与したいと考えております。また、特に世界中との交流、国際貢献は重要と考えており、この分野でも学会その他に積極的に参加することにしています。

文献ページへ

閉じる