創傷治癒と看護学、そして当研究室における取り組み

東京大学大学院医学系研究科 
健康科学・看護学専攻 
真田弘美 

 日本創傷治癒学会は、医師のみでなく、この分野に関連するコメディカルに門戸を開き、更なる発展を目指しています。これを期に看護学の分野からも評議員が選出され、まさに日本創傷治癒学会の新しい息吹を感じずにはおられません。このたび光栄にも評議員を拝命しましたので、創傷管理における最近の看護の動向と当研究室の取り組みについて簡単に紹介させていただきます。

1 創傷管理と看護
 近年の少子高齢化に伴う高齢者の増加、慢性疾患の増加とともに、創傷に関する看護技術の必要性が増してきました。なかでも、ねたきり高齢者の10%に発生している褥瘡に対して、厚生労働省は今までに類をみない方策で高騰する医療費に対応しています。また、糖尿病や閉塞性動脈硬化症に起因する足・下腿潰瘍も大きな問題として取り上げられています。これらの創傷は、その原因のほとんどが、個々の患者の日常生活から大きな影響を受けることを考慮すると、療養上の生活支援を専門とする看護師が、その予防や管理責任を担うのが自然であり、そのニーズも高いといえます。米国では上級看護師(Advanced Practice Nurse:APN)、英国では皮膚専門看護師(Tissue Viability Nurse)を修士課程で教育しています。その理由は、これら創傷の病態は多種多様であり、科学的根拠に基づいた高度な知識や技術が要求されるからです。実際にシャープデブリードメントやドレッシング材の処方も行っています。 日本には日本看護協会が認定するWOC(Wound Ostomy Continence)認定看護師が300人程度働いています。これら創傷看護師の活動により、医療機関などの施設、居宅療養者の慢性創傷の予防・治癒促進がはかられています。この活動が、患者・療養者のQOLが向上、それにとどまらず、入院期間の短縮ならびに治癒に要する医療費の軽減に貢献することができると確信しています。

2 東京大学大学院医学系研究科老年看護学分野
 研究室の基本方針は、「エビデンスに基づいた老年看護学の実践と展開」です。具体的には、高齢者の残存機能の維持・拡大をはかり、自立・自主性を重視したニーズを満たすための新しい技術や機器の開発を目標としています。例えば、高齢者の褥瘡、失禁、低栄養、疼痛(痛み)、嚥下障害、骨粗鬆症、転倒、うつ、認知症等の老年症候群といわれる症状/状態について予測、予防、診断、治療する技術や機器の開発を研究テーマとしています。
 老年看護学分野は東京大学に2003年に新設され、私が教授として金沢大学から転任してまいりました。私は金沢大学から現在に至るまで、特に高齢者に頻発する褥瘡に強い関心を持ち、その発生の予測、予防方法、創部管理について臨床に根ざした研究を行ってまいりました。1990年に米国からブレーデンスケールを導入しその普及に努めるとともに、日本の高齢者に特徴的な褥瘡発生要因である過度の骨突出に注目し、臨床で簡便に測定できる簡易体圧測定器、骨突出患者用の二層式エアマットレス、高齢者用褥瘡予防クッション、脆弱な皮膚に使用できる洗浄剤を産学協同で開発してまいりました。最近では厚労省の長寿科研費で褥瘡予防・管理用の教育ツールソフトを開発し、その効果を創傷治癒期間と費用対効果を基に検証してまいりました。まさに目指すところは創傷看護工学であり、最近では急増する足・下腿潰瘍にも研究分野を拡げています。
 安心して老いられる、老いることが尊いと思える時代のために、当研究室は日夜努力を続けていきたいと思います。

http://square.umin.ac.jp/sanada/
http://www.rounenkango.m.u-tokyo.ac.jp

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