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日本医科大学外科学教室における創傷治癒研究は、外科学第一講座(大学院医学研究科臓器病態制御外科学・主任 田尻 孝教授)と外科学第二講座(機能制御再生外科学・主任
清水一雄教授)がそれぞれ独自にあるいは交流をかさねながら研究を展開している。本稿では、主に消化器をターゲットとしたこれまでの創傷治癒研究を紹介し、今後の研究について展望する。
I. 消化管の創傷治癒研究
創傷治癒研究は皮膚モデルを用いて研究が行われてきたが、消化器外科を担当する外科学第一講座では徳永 昭(現付属第二病院消化器病センター教授)および木山輝郎講師を中心として米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校およびジョンスホプキンス大学との共同研究のもと消化管吻合をはじめとする消化管創傷治癒研究を展開してきた。
(1)消化管器械吻合創の治癒過程 ; ブタの食道・空腸器械吻合過程を内視鏡および組織学的に観察。治癒過程における増殖因子の発現を詳細に解明した。同時に、人で観察される吻合部狭窄を実験的に作成することに成功、実験モデルとして確立した。
(2)吻合創治癒に対する栄養の影響 ; 栄養経路として静脈より経腸栄養の方が治癒を促進し、しかも早期の食餌再開により効果が大きい。
(3)吻合創治癒に対する感染 ; 腹腔内感染の存在下では吻合創治癒が遅延した。
(4)吻合創治癒に対するコラゲナーゼ活性阻害および免疫抑制剤の影響 ;創傷治癒には止血・炎症期が必要であるが、炎症細胞由来のコラゲナーゼにより組織が破壊される。このコラゲナーゼ活性化を阻害すると既存の粘膜下のコラーゲンが保持され縫合糸による把持力が強い。免疫抑制剤は局所の炎症細胞浸潤を抑制する。過剰な細胞浸潤の抑制により吻合部のコラーゲン量が増加し、吻合創治癒が促進される。
(5)吻合創治癒における凝固XIII因子製剤による増殖因子の誘導 ; 凝固XIII因子による吻合創治癒促進効果の一部として血中増殖因子の誘導を証明。
消化管の治癒過程は皮膚のそれとは異なるが、吻合創治癒は生体の機能のうち修復(Repair)によって連続性を回復する。消化管創傷治癒研究は消化器外科医にとっては縫合不全などの重篤な合併症予防の点からだけではなく、生体の修復機構を学ぶ点からも優れたテーマと考えられる。
II. 肝再生の研究
生体は損傷に対して前述の修復(Repair)または再生(Regeneration)で対応する。生体肝移植をはじめとする肝臓手術の基礎は肝再生という極めて優れた自然治癒力に支えられている。消化器外科医にとって肝再生に関する研究は研究マインドを誘う領域である。当大学における研究は外科学第一吉村成子博士ならびに外科学第二の消化器グループの坂本俊樹客員助教授(現筑波記念病院)と免疫学教室(横室公三名誉教授)との共同研究が端緒である。坂本博士が大学院生として研究後、渡米、米国ピッツバーグ大学スターズル博士の下で、肝再生の過程で肝臓に造血機能が回復する現象を確認。その機構を解明した。肝非実質細胞のみならず実質細胞にも多彩なサイトカイン産生能があり、肝特異のリンパ球集団や造血前駆細胞を含めた造血系と免疫系を担う細胞群の存在をあきらかとし、肝再生とサイトカイン、肝臓を中心とした免疫寛容の解析の道を拓いた。現在では、秋丸琥甫教授(移植外科)が外科学第一講座の大学院生を指導して研究を進めている。坂本博士の基礎研究をもととして肝再生、肝不全に対する高気圧酸素治療の効果を実験的に確認し、同時に肝切除の黄疸遷延に対して臨床試験を計画した。
(1)障害肝切除後残肝再生に対する高気圧酸素治療の効果 ; 高気圧酸素治療(HBO)は障害肝に多くの酸素を供給し肝機能の改善と肝再生に有用である。ラットの障害肝モデルを作成、肝再生に対するHBOの効果を検討。材料・方法
: Wistar ratsにオリーブ油溶解50%四塩化炭素(0.2ml/100g体重)を週2回10週間の皮下注射。障害肝作成後に左外側葉と中央2葉をグリソン一括で3−0絹糸を用いて結紮切離した(70%肝切除)。肝切後HBO治療(2.8ATA,
100%O2, 60m)A群(n=52)と無治療B群(n=56)に分けて、各々術後 1、2、3、7、35日(各時点でn=10)で再開腹し、心臓穿刺による採血(血液生化学、
凝固系検査etc.)残肝摘出。HBO治療は早期観察例(1、2、3日)では毎日施行し、7、35日例では1週間に3回施行。 再生率。組織学的検索で細胞密度、線維化、PCNA免疫染色で再生を、TUNEL法でアポトーシスを観察。
成績 : A群のGTO値はB群よりも有意に低い。HBOは術後早期の肝酵素の上昇を抑制。胆汁酸、凝固検査、ヒアルロン酸では両群に差なし。肝再生率は早期ではA群がB群よりも高い(p<0.05)が5週間ではA群はB群より低い(p<0.05)。術後早期の細胞浮腫はB群に強い。PCNA数は両群間に差がない。術早期のアポトーシスはB群のみに明らか。線維化はA群で軽度。
結語:術後早期のHBOは障害肝切除後の残肝機能とアポトーシスおよび肝再生に効果を認めたが、1週間以上のHBOは逆効果。
(2)肝切除後遷延性高ビリルビン血症に対するHBOの効果 ; HBOの優れた作用を誘導する至適条件を決定するため実験・臨床研究を展開中。
III. 今後の展望
消化管の修復と肝再生について、動物実験と臨床研究からアプローチを続けている。今後は消化管創傷治癒では吻合創治癒に対する感染の影響とその対策、また吻合創治癒だけでなく消化性潰瘍治癒機構の解明とヘリコバクター・ピロリ菌の関与などに着手している。肝再生に関しては組織幹細胞分離による再生医療を念頭においた基礎・臨床研究を準備している段階である。
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IV. 文献
- 徳永 昭, 恩田昌彦 創傷治癒研究の進歩と臨床応用, 日本医科大学誌 1994, 61, 171〜179
- Fujita I, Tokunaga A, Expression of interleukin-6 and tumor
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- Sakamoto T, Stazl TE,Donar hematopoietic progenitor cells
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liver grafts. Transplantation 1999, 67, 833〜840
- Sakamoto T, Yokomuro S, Mitosis and apotosisi in the liver
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- 平本義浩, 徳永 昭 ブタを用いた消化管吻合治癒の実験モデル 胃全摘食道空腸器械吻合創の治癒過程と吻合部狭窄の発生 外科と代謝・栄養 2000,
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- Kiyama T, Tokunaga A, Effect of early postoperative feeding
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- Sakamoto T, Demetris AJ Concanavalin A simultaneously primes
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- Kiyama T, Tokunaga A Effect of matrix metalloproeinase inhibition
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- 徳永 昭, 田尻 孝 創傷治癒と高気圧酸素療法外科治療 2004, 90, 343〜344
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