本邦における創傷センターの役割について

新須磨病院 創傷治療センター 主任医師
北野 育郎

はじめに:
 2002年より褥瘡対策の未実施減算が開始され、これを契機に当院でも慢性創傷に対する治療に積極的に取り組むこととなりました。このため、米国LAにあるwound care center(Wound care center team at Arcadia Methodist Hospital)を見学に行く機会を得ました。このことが、米国における足病治療に接した最初だったのですが、大変な感銘をうけました。Wound care centerでは複数の診療科にわたる医師のみならず、慢性創傷治療を専門とした看護師、足専門の装具士(pedorthist)からなるチーム医療が確立され、短期間での高い治療率をあげていることを知り、是非日本でもwound care centerを始めたいと考えました。

社会背景:
 現在米国では、糖尿病患者に全医療費の約7分の1が費やされており、さらに糖尿病性足病変に起因した下腿切断が年間8万例以上にまで達しています。糖尿病による下腿潰瘍のため、やむをえず膝下近位で下腿を切断された方は、結果として切断後5年以内に半数近くの方が、脳血管疾患、心疾患、腎不全等を併発し亡くなってしまいます。また、全糖尿病患者の15%は足病変の経験をもつともいわれ、糖尿病による下腿切断のリスクは、一般の人に比べ30〜40倍にも上ります。一方、現在のわが国の糖尿病有病率は成人人口の約7.4%であり、米国の7%をすでに超えております。平成14年度のわが国の糖尿病有病患者数は推定740万人で、糖尿病の疑いのある患者を合わせると1620万人と報告されており、平成9年の1370万人から5年間で250万人も増加しています。糖尿病性壊疽は、日本では比較稀な合併症であると考えられていましたが、1965年以降増加し、この疾患の性別または年齢別分布は、欧米諸国のそれとほぼ一致することが明らかとなってきました。こういった背景から、近い将来日本でも年間数万例が下腿切断を余儀なくされる事態が予想され、当院では2003年1月より創傷治療センターを開設しました。

創傷治療センターの構成および治療過程:
 新須磨病院創傷治療センターの構成員は、血管外科医1名、形成外科医2名、専任の看護師3名からなり、3つの診察室を同時に使用して診療を行っております。また、義肢装具士による特殊装具外来も行い、血管造影や手術等が必要と判断された場合には入院となり、必要に応じて内科医、整形外科医、透析医等の協力を依頼し、短期間での治療をめざしています。

対象患者背景:
 週1日の外来において、患者数は平成15年1月の開設時から6月までで平均8.3人であったのが、平成17年6月時では1日平均36.0人と増加しました。平成18年度8月までで、患者のべ人数は399症例(患者実数342名)となっています。内訳は、末梢動脈疾患による虚血性潰瘍(神経障害合併例を含む)の症例が205例(51%)と半数以上を占め、糖尿病性神経障害による下腿潰瘍(動脈不全のないもの)14%、静脈疾患8%、褥瘡患者12%、その他(膠原病、外傷によるものなど)が16%となっています。また、慢性腎不全症例が全体の26%を占めており、透析医の協力は不可欠といえます。

結果:
 2003年1月から2006年8月までの時点で、399例中296例が創傷治療センターでの治療を終了しました。296例中216例が治癒し、治癒率は73%で、平均治癒期間は104.3日(14.9週)でした。296例中20例で、創部悪化のため下腿2分の1以上での大切断が余儀なくされ、大切断率は7%となっております。治療期間中に20例が死亡(死亡率7%)されましたが、創部治癒し退院された後に亡くなられた方が12例もあり、follow-up期間を含めた死亡率は11%(32/296)と大変高くなっています。当院の患者内訳の半数を占める末梢動脈疾患による虚血性潰瘍、いわゆる重症虚血肢症例では、虚血性心疾患、脳血管障害、慢性腎不全などの動脈硬化に起因した合併症を有する症例が多く、下肢の創傷治療を含めた全身管理が必要であることを痛感しています。

最後に:
 わが国の足病治療の問題点としては、足の専門医が少ないために、足に創のある患者はどこにいったらよいか判断に迷うことが多く、足病については、各診療科の技術に応じた治療が行われ(縦割りのセグメンテーション)、難治性となっているケースがあると考えます。足をひとつの臓器として考える足病治療学の確立(横割りのセグメンテーション)が必要と考え、このため、われわれの創傷治療センターでは、血管外科医、形成外科医がkey personとなり、チームでの治療を行うことができる体制作りすすめました。さらに、pedorthistとしての義肢装具士の協力も絶対不可欠と考えております。

文 献

1)北野育郎:足の難治性潰瘍患者のフットケア
フットケア 基礎的知識から専門的技術まで 編集 日本フットケア学会 医学書院 2006年7月 III-6 P123〜132 
2)北野育郎:糖尿病性足病変に対する創傷治療センターの取り組み DIABETES IN THE NEWS 2006年3月 NO336 P4〜5
3)北野育郎:下腿潰瘍と褥瘡 診断と治療の実際
はじめよう フットケア 日本看護協会出版会2006年10月P57〜61 
4)北野育郎:創傷のマネージメント
重症虚血肢の診断と治療 メディアルファ 2007年1月 P24〜34
5)寺師浩人、北野育郎、辻依子:形成外科における画像診断:下肢血行障害の画像診断.形成外科、49:17-23、2006.
6)寺師浩人、辻依子、北野育郎:病態よりみた難治性下腿潰瘍の診断と治療:感染性下腿潰瘍とは.形成外科、49: 181-192、2006.
7)辻依子、寺師浩人、北野育郎、田原真也:順行性Distally based perforator medial plantar flapによる前足部荷重部の再建.日形会誌、26:742-745、2006.