名古屋大学形成外科教室における創傷治癒研究

名古屋大学形成外科
鳥山 和宏
鳥居 修平

 名古屋大学形成外科教室の創傷治癒に関する研究課題は、研究が開始された当初より、組織工学・再生医療の分野に関ってきた。最初は培養皮膚で、次いで脂肪、最近は大網による骨・骨髄の再生である。大網については、免疫担当組織として、炎症反応における役割の解析を行っている。

1.培養皮膚
 口腔外科との共同研究で、口腔外科のオリジナルの培養粘膜とともに表皮細胞を培養し培養表皮シートを作成して、熱傷創、採皮創、母斑切除後、白斑などに臨床応用してきた1)−4)。特に、広範囲熱傷において従来救済できなかった救命ができるようになり、作成するのに時間とコストはかかるものの、熱傷治療に大いに貢献することが期待されている。また、WHOの要請に応じて培養表皮によるガーナのブルーリー潰瘍の治療にも携わった。白斑治療においては、炭酸ガスレーザーとの併用で広範囲の白斑を均一にきれいに仕上げることができ画期的な成果をあげている5)−6)
 
2.脂肪の組織工学
 われわれの教室では、脂肪組織を従来の方法で移植しても、変性吸収されて移植した体積が半分程度になる現象に着目し、実際に脂肪組織が形成されるには脂肪細胞の前駆細胞が必要であろうとの仮説の中、各種実験を繰り返してきた。当初はマウスの脂肪前駆細胞を利用して脂肪組織を再生していたが、この中で脂肪前駆細胞を使用しなくてもMatrigelとFGF2を注入すれば生体内の未分化間葉系細胞が誘導されて脂肪組織が新生されることをはじめて報告した7)−10)。その後脂肪組織の中にも、骨髄組織と同様に、脂肪、軟骨、骨などに分化できる幹細胞が存在することが他施設より証明された11)。われわれは、脂肪組織から天井培養を応用して2種類の幹細胞を獲得することができ、それらの細胞の特性を分析し報告した12)。また、脂肪由来幹細胞を素早く十分に増殖させる低血清培養法を開発し国際特許を申請中である13)−14)

3.大網
 大網を感染創の治療に臨床応用してきた経験15)−18)から、大網には血管新生を促進する因子が分泌されていると考えて、大網由来のlipid fraction に皮弁延長効果があることを報告した19)。一方、臨床で大網を遊離移植するための基礎資料として大網の阻血限界時間を調べて、阻血3時間から4時間までであればほぼ完全生着できることを明らかにした20)。また、阻血の前にpreconditoningすると阻血限界時間が延長できることを発表した21)。下腿複雑骨折や腫瘍切除後の再建に遊離大網移植+遊離腓骨移植する臨床応用例を発表する22)一方で、大網と骨膜から骨再生を試みる実験を行い、ラットや家兎レベルで大網に隣接して骨組織が形成できることを確認し報告した。
 一方、大網組織にも間葉系幹細胞が存在することが予想され、幹細胞を同定培養して、脂肪、骨、軟骨への分化能を確認している。
 さらに、大網には、小腸のパイエル板と同様に、乳斑というリンパ球の集ぞくした組織がある。そこで、腹腔内の免疫応答を検索するために、T細胞やマクロファージの応答をフローサイトメトリーで解析中である。
 近年、皮膚の創傷治癒においてアポトーシスが重要な役割を果たしていることがわかってきた。われわれの施設では、現在、大網の創傷治癒モデルでのアポトーシスの役割につき検討中である。

4.ミッドカイン
 ミッドカインはへパリン結合性の増殖因子で、細胞の増殖、生存、移動などを促進するなどの多彩な活性を持っている。胎児中期に広範囲に発現されて、生後は腎臓などに限局される因子である。この因子が炎症、特に好中球の遊走と滑膜炎に深く関与し、熱傷創の創傷治癒にも関与していることを示した23)−26)。さらに、開腹手術後の腹腔内の癒着にミッドカインが重要な役割を果たしていることを明らかにした27)。一方、ミッドカインはWilms腫瘍細胞や大腸癌細胞の増殖を促進する。Doxorubicinを結合した抗ミッドカイン抗体が抗腫瘍効果を発揮し、癌治療に利用できる可能性を示唆した28)。器官培養系を用いてマウス胎児肺分岐形成にも大きく寄与していることを示した29)−30)。しかし、胎児皮膚欠損創の器官培養での創傷治癒の解析では、ミッドカインの関与を証明できなかった。

今まで一番の研究テーマは皮膚及び軟部組織(脂肪)の再生医療が中心であったが、今後は、名古屋大学形成外科の臨床テーマである大網の創傷治癒をはじめとする再生医療が中心となると思われる。このテーマは世界的にもユニークであり、大網の特性を解析して臨床へフィードバックしていくことが教室の重要な任務であると考えている。

文献

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