川崎医科大学形成外科学教室での創傷治癒研究

川崎医科大学形成外科学教室
講師 久保 美代子
教授 森口 隆彦
 

 当教室は、西日本で最初の形成外科学教室として1975年に創設され(初代教授:故谷太三郎)、2005年に開講30周年を迎えています。当教室での創傷治癒に関する研究については、10周年、20周年、30周年の各記念誌、また川崎医科大学形成外科学教室ホームページ(http://www.kawasaki-m.ac.jp/prs/)にも記載されています。
 最近の10年間の当教室での創傷治癒研究をテーマ別に挙げますと以下のようになります。これらのうちの約半数は学内外の臨床あるいは基礎教室との共同研究として行われました。また、現在、継続中のものもあります。
1.創傷治癒のメカニズムに関する研究:肥厚性瘢痕・ケロイドの特性を決定する遺伝子の解析、創傷治癒過程における細胞外マトリックス(テネイシン)の発現についての検討、異物肉芽腫の退縮における血管消退の apoptotic 機序、一酸化窒素(NO)のヒト線維芽細胞におけるコラーゲン代謝への影響、 ヒト瘢痕由来線維芽細胞に対する細胞増殖因子の作用。
2.慢性創傷、難治性潰瘍に関する研究:褥瘡発生危険因子に関する基礎的研究とその妥当性の検討、慢性創傷における再上皮化遅延の機序解明。
3.再生医療に関する研究:神経・筋の変性と再生、移植に関する研究、β3インテグリン組み換え型培養表皮の開発、再生医療におけるWntファミリーの役割。
4.創傷治療薬剤の効果に関する研究:培養ヒト各種細胞の細胞増殖に与えるbFGF、トラニラストの効果。
5.血管・リンパ管分布の解剖学的研究:リンパ浮腫の発生機序解明とその治療法の確立、血管柄付組織移植(穿通枝皮弁)の基礎と臨床、下肢の神経の血行支配について、顔面ならびに足部における血管解剖の解析。6.顎顔面形態形成に関する研究:口唇裂口蓋裂患者における顎形態と 術後外鼻変形との関連性についての研究、顎顔面形態形成に関わる FGF−8の役割。
 これらの多方面にわたる創傷治癒研究の目的は、包括的には、創傷ケアの進歩を目指すことですし、創傷ケアをエビデンスに基づいて行うことです。研究のさらなる前進を期して精進したいと思っております。 
 ここでは、「β3インテグリン組み換え型培養表皮の開発」について少し詳しくご紹介いたします。培養表皮移植は国内外での再生医療の最先端の分野ですが、その生着率に関してはまだまだ改善が必要です。私たちはこの培養表皮の生着率向上のために独自のアプローチを行っています。すなわち私たちは、αvβ3インテグリンの機能? 創傷部に多く存在するフィブリノーゲン(FG)、フィブリン(FB)、変性コラーゲン(gelatin)
(GEL)、フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)などと反応(接着、移動、増殖)し得る?に着
目し、レトロウイルスベクター法によりβ3インテグリン・サブユニットcDNAを正常培養ヒトケラチノサイト

recombinant keratinocytes1)を使用して培養表皮を作製すること(ex vivo遺伝子治療型培養表皮の開

せん2、3)。これまでに、β3インテグリン・サブユニットcDNA導入ヒトケラチノサイトのin vitroでの細胞機能についての検索をほぼ終了しました。結果ですが、同ケラチノサイトは、細胞表面にαvβ3を発現し
2、3)、コントロール細胞(β-gal cDNA導入ヒトケラチノサイト、正常ヒトケラチノサイト)に比べて有意にFG、FB、GEL、VN、FNに対して細胞接着が増加し(1時間の細胞接着アッセイによる)、細胞伸展が
増加しました2、3)。また、同ケラチノサイトはコントロール細胞に比べて有意に、FG、FB、GEL、VN上
で細胞増殖が増加し(5日間の細胞増殖アッセイによる)4)、FG、FB、GEL、VN、FNに対して細胞移動
が増加しました(14時間のhaptotaxis migrationassay による)(第2回国際創傷治癒学会で報告)。
これらの結果は、同recombinant keratinocytesを使用して作製する培養表皮が難治性の深い熱傷創や慢
性創傷部(FG、FB、GELが多く存在する)への培養表皮移植片の生着率向上に有用であることを強く示
唆しています。現在は、動物実験によるβ3インテグリン組み換え型培養表皮の有効性の検証を行ってい
る段階です。
 最後にこの場をお借りしてお知らせがあります。当教室は2008年8月29−30日に第10回日本褥
瘡学会学術集会を神戸市で主催する予定です。皆様方の多数のご参加をお待ち申し上げます。

文献

  1. Richard A. Clark, Miyoko Kubo, Inventors: The Research Foundation of State University of New York,Assignee. United States Patent, RECOMBINANT KERATINOCYTES. Patent No.: US 6,268,215 B1, July 31, 2001
  2. Miyoko Kubo, Livingston Van De Water, Lisa C.Plantefaber, Michael W. Mosesson, Marcia Simon,Marcia G. Tonnesen, Lorne Taichman, Richard A. F.Clark: Fibrinogen and fibrin are anti-adhesive forkeratinocytes: A mechanism for fibrin eschar slough during wound repair. J Invest Dermatol 117(6):1369-1381, 2001
  3. Miyoko Kubo, Richard A. F. Clark, Anne B. Katz,Lorne B. Taichman, Zaishun Jin, Ying Zhao, Takahiko Moriguchi: Transduction of β3 integrin subunit cDNA confers on human keratinocytes the ability to adhere to gelatin. Arch Dermatol Res 299(1):13-24, 2007
  4. 0061 Miyoko Kubo, and Takahiko Moriguchi:HUMAN KERATINOCYTES TRANSDUCED WITH
    THE BETA3 INTEGRIN SUBUNIT CDNA CAN GROW ON FIBRIN, FIBRINOGEN, VITRONECTIN AND GELATIN. Wound Rep Reg 11( 2 ) : A17, 2003