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当科は一般・消化器外科と消化器内視鏡を標榜しているので、創傷治癒研究は消化管または肝・胆・膵をテーマとしてきた。これまで、消化管吻合法の工夫、Tチューブ抜去後総胆管修復過程の検討、膵線維化などの研究で報告したことがある。今回は、現在も継続している研究テーマを紹介する。
I 十二指腸潰瘍穿孔に対する大網被覆術と創傷治癒
今日、消化性潰瘍の外科的治療には腹腔鏡的または開腹アプローチによる大網充填術が標準術式(写真)となり、当科においても満足すべき成績を得ている。潰瘍穿孔の治癒過程は、結合織の造成とその後の上皮化、すなわち皮膚損傷・修復における二期治癒に相当する。当教室では、1995年よりラットを用いて実験的潰瘍穿孔モデルを作製、その修復過程を詳細に検討してきた。
実験;
1)単純閉鎖術(SS) 単純に縫合閉鎖する。
2)大網被覆術 大網で穿孔部奨膜側を覆う。
3)大網充填術 大網を穿孔部に一部引きいれる。
4)Omental Implantation(OI) 大網を穿孔全体に引き入れる。

以上の4群を設定。経時的に修復過程をレーザー・ドップラーで血流測定し、増殖因子(b−FGF, TGF-β)の発現を免疫組織学的に観察した。OI群ではSS群に比して早期より血流が維持され、炎症が早期に消退し、再発のない速やかな潰瘍治癒をもたらした。さらに、OI群では移植大網周囲にb−FGFを発現する細胞が出現、著明な血管新生が観察された。TGF-βは、OI群で3−5PODまでマクロファージに陽性で、10POD以降はコラーゲンの出現に伴い消失した。コラーゲン出現を促進したTGF-βのコラーゲン増生に伴う消失が、連鎖的に速やかな上皮化を誘導し、良好な治癒に導くことが示唆された。また、大網の持つ抗炎症作用をIL-8の発現をマーカーとして検索した。SS群では観察期間を通じて好中球が浸潤し、IL-8が陽性であった。OI群では5POD以降にはIL-8陽性細胞は観察されなかった。
以上の実験結果より、穿孔性潰瘍の治癒過程は、単純閉鎖→大網被覆→充填→Implantationの順に良好であることが示された。
現在は、大網により修復された穿孔部について検索ならびに大網におけるアポトーシスについて検討中である。
II 手術部位感染(SSI)対策における手術創真皮縫合の意義
手術部位感染(SSI)を減少させるための対策は、実地臨床上きわめて重要な課題である。CDCガイドラインによれば手術部位すなわち皮下の死腔をなくすことが勧告され、日常的に皮下縫合が行われている。一方、皮下脂肪層の縫合によりむしろSSIが増加するとの報告もある。そこで、当科では2007年より開腹消化器癌手術を対象として形成外科領域において実践されている真皮縫合を採用し、SSI発生に対する影響を検討している。成績は公表すべき段階ではないが真皮群では1例もSSI発生を認めていない。真皮縫合はSSI対策上、一つの優れた方法かも知れない。
本研究の展開により感染対策のみならず、創傷治癒に対する感染の影響についても新知見の得られる可能性が高い。
今後の展望
消化器内視鏡を専門とする医師により上部内視鏡では、消化性潰瘍修復に対するヘリコバクター・ピロリの影響を検討するグループや、下部内視鏡では、潰瘍性腸疾患における潰瘍修復過程の観察などの研究、さらに外科系医師による腹腔鏡手術と創傷治癒・感染の関係のテーマなどの研究が進行中である。
文献
- 松林富士男 胃・十二指腸穿孔に対する大網引き入れ充填閉鎖術. 手術 37,966−970,1975
- Matoba etal. Evaluation of omental implantation for perforated gastric ulcer therapy: findings in a rat model. J Gastroenterol 31,777−784,1996
- 徳永 昭 ほか 増殖因子と消化管. GI Res 5,223−230,1997
- 徳永 昭 ほか 増殖因子と消化管創傷治癒. 細胞 32、299−302,2000
- 徳永 昭 ほか 消化管創傷治癒?消化管潰瘍修復および吻合創治癒. Connective Tissue 32,351−359,2000
- Fujita etal. Factor XIII therapy of anastomotic leak and circulating growth factors. J Nippon Med Sch 73,18−23,2006
- 宮本正章 ほか 膠原病による難治性皮膚潰瘍とその対策. リウマチ科 39,149−155,2008
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