創傷ケアへの看護師の関与
東京慈恵医科大学第三病院外科 穴澤貞夫

 最近、世界的にストーマ管理専門ナースを中心に創傷ケアを看護の専門分野のひとつに取り組もうとする動きがみられます。日本でも日本看護協会がストーマ・失禁の看護に創傷管理を加えたWOC(wound,ostomy,continence)認定看護師という制度を発足させ、すでに300人を超えるWOC-ナースが養成されたと聞いております。ストーマ・失禁という排泄機能障害看護のなかに一体何故創傷管理が加わったかという疑問を持たれるかと思いますが、ストーマケアに用いる皮膚保護剤という複合ポリマー剤が組成上ハイドロコロイド型の創傷被覆剤と殆ど同一といってよいもので、日ごろ皮膚保護剤を使い慣れている看護師が、同じような組成の創傷被覆材を様々な傷に用いる機会が生じ、次第に創傷ケアに興味を持つようになったというのがその理由です。

 このような創傷ケアに看護がかかわる状況のなかで、医師は創傷管理の何をどこまで看護にゆだねてよいのでしょうか? わが国でこの問題を考えるとき、看護業務を規定している保助看法と呼ばれている法律に突き当たります。かって看護協会のWOC認定看護師教育責任者にこの点を尋ねたことがありましたが、明確な答えはありませんでした。ストーマや失禁の領域などでは、医師と看護の業務の住み分けがきれいにできており、その中で看護師の裁量の範囲は広く看護の専門性は十分存在しうるのですが、創傷ケアの専門看護職というものがストーマや失禁と同じレベルで成り立ちうるのか、話は簡単ではないと思います。現時点では創傷管理はあくまで医師が中心となり、医師の補助業務として看護師にたずさわらせるべきものであります。

 一方このような創傷管理へ看護の関与が始まった理由として、医師の創傷管理に対する無関心さが挙げられます。特にどこの病院でも多数みられる蓐瘡に対しては医師が一向に目を向けようとしないことから、かなりの程度まで看護師が治療に係わらざるを得ない状況になっているようです。本来外科医は創傷治癒学のエキスパートであるはずですが、どうも多くの外科医は蓐瘡のみならず創傷管理に関心が低く、“傷はどうやっても最終的に治る”としか思ってないようにも思われます。事実、臨床の現場での創傷管理は医師毎、診療科毎、病棟毎、病院毎にばらばらです。最近ある医学雑誌に“日本の創傷管理は19世紀後半のもの”という記事が掲載されておりましたが、一貫性を欠いた医師の創傷管理に対する姿勢への看護師の不満は潜在的に相当なものがあるようです。

 このような外科医の創傷ケアに対する無関心さは一体どこから来ているのでしょうか? 私の勤務する大学で他大学出身者にそれぞれが受けた創傷治癒学教育を尋ねると、ほとんどが覚えてないといいます。また覚えている者も難しくてよくわからなかった、とも言います。かって幾つかの医科大学に創傷治癒学の教育状況について調査したことがありましたが、創傷治癒学講義はせいぜいが2単位、実習も包帯法の実技指導のものでした。極めて重要な教育項目にしてはあまり時間が割かれてないと言うべきでしょうが、それよりどうも学生の興味を引くように面白く講義が行われてはいないようです。細胞レベル、生化学・分子レベルの話に終始しているのではないかと推察します? 創傷治癒学はもっと平易に、実際的なことから教授すべきではないかと思います。一工夫もふた工夫もあってよいはずです。外科医に見られる創傷管理への無関心さは、この学生時代の教育の不備が原因のひとつになっているのではないかと私は考えます。

 一方看護師は創傷治癒について一体どれほどの教育をうけているでしょうか? 私は所属大学で医学科、看護学科、そして看護学校の創傷治癒学の講義を全て担当しておりますが、医学科に比べても看護教育ではごくわずかの時間しかさかれておりませんし、この状況は私どもの施設だけではないようです。我々が今後創傷ケアを看護師と一緒に行うには、一般看護師の創傷管理に関する学識はまずその程度のものと思わなければなりません。しかし看護師が創傷ケアに関与するのはもう時代の流れであると考えれば、医師であれ看護師であれ、創傷治癒学の卒前教育には問題を抱えていることは明らかでありますから、今後卒後教育の中で創傷治癒学の再教育が必要です。そして本学会こそがそのニードに答えて、長期的な視点にたって医師ばかりでなく看護師の人材育成を地道に行うべきと主張したいと思います。