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1. 創傷治癒と再生医療
近年、再生医療という言葉が専門誌のみならず新聞紙上にも頻繁に登場するようになった。これは、生体のもつ自然治癒力の秘密を解明して治療に応用する医療である。従来からの「医療の基本的な概念」であるのに、なぜ今、注目されるのであろうか?
再生医療のキーワードは、「細胞」、「細胞成長因子」、「生体材料」である。分子生物学の急速な進歩により、細胞成長因子を含む種々の生理活性物質の構造と機能が詳細に解明され、それに関与する遺伝子も解明されてきた。これらの研究成果の蓄積が、自然治癒力の秘密を解明する手がかりとなる。そして、自然治癒力の秘密を解明する研究分野こそが「創傷治癒」である。各々のキーワードを手段とした新しい治療が可能になり、医療の基本的な概念を具体的な手段を持って実現化できるようになってきた。このことが「再生医療」が急に注目されるようになった理由と思われる。
2. 再生組織工学の可能性
生体材料を単独で適応して組織の欠損部分を修復することも可能であるが、さらに一歩進んだ治療として生体材料に細胞を組み込んだ医療用具を適応して組織の修復を促進することが可能になってきた。細胞あるいは細胞成長因子を単独で適応して組織の修復を行う治療も再生医療の範疇に入るが、基本的には、細胞の「足場」となる生体材料の役割が極めて大きいと考えられる。2年程前に、米国の専門誌に再生組織工学に関する特集が掲載された。この冒頭に大変興味深い記載があったので一部を紹介させて頂く。
「Imagine a day when people with liver failure can be cured with
implanted メneo-organsモ made of liver cells and plastic ゙bers;
when insulin-dependent diabetics can forgo their frequent insulin
injections because they have semisynthetic replacement pancreases;
when kidney dialysis machines are obsolete because anyone with
damaged kidneys can be out゙tted with new ones grown from their
very own cells. Sound like science ゙ction? Not to scientists
working in tissue engineering, a ゙eld of science that is barely
a decade old. ― Some of the leading scientists in tissue engineering
outline the current successes of their young research ゙eld and
sketch a “brave new world” in which people need not die for lack
of spare parts. ―」(Sci. Amer. April 1999, p37)
肝臓、膵臓、腎臓などを患った人々が細胞と材料から作製した新規の器官で治療を受けることが可能になる日が来ることに対して、この分野の研究者は、決してSFの世界ではないと確信している。人々が再生組織工学によって予備の器官をもつことができるようになる。このような実現性は、最近の胚性幹細胞の研究の目覚ましい進歩をみると、もはや時間的な問題のような気がしてくる。肝臓、膵臓、腎臓などの極めて複雑な機能をもつ臓器に関しては、治療に必要な十分量のヒト由来の細胞を入手することが困難であったため、製品化への道のりは遠いものであった。しかし、胚性肝細胞の研究成果により、この道のりは一気に短縮される。先日、米政府は、胚性肝細胞を使用した研究に対して公的な研究予算をつけることを発表した。再生組織工学は、医療の進歩を益々加速させるであろう。
3. 再生医療の推進に必要不可欠なガイドライン
米国では、ヒトの組織や細胞由来の医療製品に関するガイドラインが食品医薬品局(FDA)により提案され、既に幾つかの培養皮膚代替物が製品化されている。日本では、これまでヒト組織細胞の取り扱いに関する基本法律が整備されていなかったためヒト組織細胞の医療への利用を展開する場合の最大のネックとなっていた。しかし、平成12年12月26日に日本でもこのFDAの提案を基盤としたガイドラインが作成された(ヒト由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針)。そして、平成13年3月28日に厚生労働省から最終的なガイドラインが発表された(細胞組織医薬品及び細胞組織医療用具に関する取扱いについて)。 この中には下記のような趣旨が記載されている。『近年のバイオテクノロジー技術の急速な発展に伴い、人工培養皮膚等細胞又は組織より構成される医薬品及び医療用具の開発が著しく進展している。これら細胞組織医薬品及び細胞組織医療用具については、ドナースクリーニング、感染因子の不活化などドナーに由来する感染症への対策、培養等の処理により細胞又は組織が有害な性質のものとならないことの確認等、品質及び安全性を確保するために特別な対策が必要とされるものである。ム
』 このように、再生組織工学の技術を駆使して新しい医療を慎重に、そして遅延なく進展させるためのガイドラインが国内において整備されたことは、21世紀の医療において極めて重要な意義をもつ。
4. 厚生科学ミレニアムプロジェクト(ヒトゲノム・再生医療等研究事業)
厚生労働省は平成12年度からミレニアムプロジェクトとしてヒトゲノム・再生医療等研究事業をスタートした。研究成果を実際に医療へ展開するためのガイドラインも発表されたことから、再生医療が現実性を帯びたものになってきた。近い将来、国内においても培養皮膚代替物の製品化が実現するであろう。大学における研究開発ならびに臨床研究は、そのパイロットスタディーとして位置付けることができる。それゆえ、大学においても「細胞組織医薬品及び細胞組織医療用具に関するガイドライン」に記載された項目を念頭において自主基準とマニュアルを整備し、それに則して研究を推進する必要がある。現在、厚生科学ミレニアムプロジェクトの皮膚部門として推進している研究は、北里大学人工皮膚研究開発センターで製造された同種培養真皮を用いた多施設臨床研究である。自主基準とマニュアルを整備し、それに則して同種培養真皮を製造し、全国17の大学病院に供給している。各医療機関においては、各々が倫理委員会の承認をえて臨床研究を推進している。
5. 再生医療を支える本学会
再生組織工学のキーワードの相互の関連性を追求する研究分野が「創傷治癒」である。創傷治癒を専門とする研究者が新しい医療の確立に大きく貢献するためには、相互の関連性をいかにして治療にフィードバックさせるかという「基礎研究から臨床研究へ」の意識をもつことが重要と思われる。国内においては、このような意識をもった研究者が中心となって日本組織工学会と日本再生医療学会が設立された。創傷治癒に関する基礎的な研究に重点をおいた日本炎症学会も日本炎症・再生医学会と名前を変え、国内のほとんどの再生組織工学研究者を評議員として学会に迎え入れた。
日本創傷治癒学会は、昨年の学会プログラムに「再生医学21世紀の医療、臓器再生・治療への挑戦」という魅力的なセッションを組み入れた。しかし、会場には、多少違和感を感じる雰囲気があったように思われた。それは、日本創傷治癒学会の前身である創傷治癒研究会が「基礎研究」に重点をおく傾向があったことにも起因するように思われる。日本創傷治癒学会は、「基礎研究」に重点をおくべきか?「臨床研究」に重点を移動させるべきか? 実は、両者のバランスが重要であり「臨床研究に結び付ける基礎研究」という意識が、医療への具体的な貢献を可能にする一つの方法と思う。創傷治癒過程は、個々の基本となる成分が相互に協調しながら最終的に組織の修復を完成させる。まさに、基礎から臨床への自然の流れを感じ取れる。日本創傷治癒学会は、基礎研究と臨床研究のバランスを保つことにより再生医療を支える主要な学会として発展することが期待されている。
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