日本創傷治癒学会研究奨励賞を受賞して

慶應義塾大学医学部 形成外科学教室
髙谷 健人

 この度は、第53 回日本創傷治癒学会にて研究奨励賞という大変名誉ある賞を賜りまして、大変光栄に思います。日頃から手厚くご指導いただいている貴志和生教授をはじめとする研究関係者の皆様には、この場をお借りして御礼申し上げます。また、大会長の水野博司教授、選考委員の先生方にも深く感謝申し上げます。

 受賞研究テーマは、「AMPK およびRac1 活性制御によるactin cable 形成誘導と創傷治癒の促進」になります。当教室では20 年以上にわたり、創の完全な再生のメカニズムを解明するべく、マウス胎仔の発生段階の創傷治癒過程の観察を行ってきました。特に、胎生13 日(E13) までは跡形なく再生する一方で、E14 以降では目に見える瘢痕を残して治癒します。この切り替わりには創縁のactin cable 形成および表皮細胞の遊走が関与することがわかっていますが、その詳細なメカニズムは不明でした。今回の発表では、細胞遊走とactin 動態制御に関与する因子であるAMP-activated protein kinase (AMPK) およびRac1 に注目し、独自のマウス胎仔創傷治癒モデルを用いて薬剤の投与やコンディショナルノックアウトマウスによるAMPK およびRac1 の活性制御を介した皮膚再生への影響を報告いたしました。これらの発見は、瘢痕を残さない完全な皮膚の再生を可能にする治療法の開発に寄与する可能性を示唆するもので、創傷治癒領域への貢献を評価いただいたと考えております。

 同学会では昨年度も当教室から石井龍之先生が同賞を受賞しており、慶應義塾が日本の創傷治癒に関する基礎研究を先導していることを示すことができたと考えております。これに慢心することなく、創傷治癒研究と医学の発展にむけて精進していきたいと思います。この度は誠にありがとうございました。

 

閉じる