無細胞系絆創膏型人工皮膚 “VitriBand” の開発


佐賀大学医学部 病因病態科学講座
青木 茂久

 この度は第44回日本創傷治癒学会学術集会において、研究奨励賞という身に余る栄誉ある賞を賜り、感謝の気持ちで一杯です。これも偏に共同研究者の農業生物資源研究所、竹澤俊明博士、今まで御指導頂いた佐賀大学医学部、杉原 甫名誉教授、戸田修二教授をはじめとする皆様方のおかげであり、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 皮膚が担う生体にとって最も重要な機能は、生体内と外界を隔てるバリアです。従って、やけどや外傷により広範囲に皮膚欠損を来した患者の治療には、バリア機能の回復が最優先されます。現在の治療法として、浅い傷にはハイドロコロイド製剤等の被覆材、深部の欠損の場合には真皮を補完するコラーゲンスポンジ製剤、さらに広範囲に及ぶ場合は植皮術や培養皮膚シート移植が行われます。いずれの治療法も適応面積や、実施施設には制約があり、すべての患者への普遍的な対応は困難であり、さらに救急患者に対応できる常時使用可能な人工皮膚は今のところ開発されておりません。

 私は佐賀大学医学部大学院在学中より皮膚再生研究を行って参りました。当初は培養細胞を用いた皮膚シート移植による治療法の開発を目指しておりました。この培養皮膚シートは、シートの表面には表皮細胞を、裏面に線維芽細胞を播種する必要があり、その培養担体としてゲル状のコラーゲンを用いておりましたが、この状態では強度が不足し移植操作が行えず、その実現は困難な状況でした。2004年に農業生物資源研究所、竹澤俊明博士と出会い、同博士が発明されたガラス化処理による高密度コラーゲン線維の新素材「コラーゲンビトリゲル(collagen vitrigel)」の存在を知りました1)。そして、このコラーゲンビトリゲル膜を培養担体として用いることで、ピンセットで操作できる培養皮膚シートの作製が可能となりました。動物移植実験にて、その培養皮膚シートを移植したところ、創部の治癒が促進されましたので、その再生組織を解析したところ、興味深いことに、移植細胞は創部から消失しておりました2)。この結果をヒントに、人工皮膚にとって細胞は必須ではない、というアイデアを得ることができました。

 再生皮膚組織を観察しますと、再生には①表皮が担うバリア機能と、②再生に関与する細胞の足場、すなわち、線維芽細胞や筋線維芽細胞が産生する細胞外マトリックス(コラーゲン)が重要であることが分かります。また、この筋線維芽細胞の過剰な増殖は、創部での瘢痕収縮の原因となります。そこで、今回、我々は粘着性テープとコラーゲンビトリゲル膜を組み合わせることで、物理的バリア機能を回復しつつ、コラーゲンを供給することで創部の微小環境を最適化する新たな医療機器(VitriBand)を開発しました。このVitriBandによる治療効果をハイドロコロイド製剤、コラーゲンスポンジ製剤といった既存製品と比較し検討したところ、VitriBandを使用したマウスはハイドロコロイド製剤やコラーゲンスポンジ製剤と比較して、高い上皮化促進作用と瘢痕抑制作用を認めました。特にVitriBand治療群では再生組織内の筋線維芽細胞の出現頻度が低く、線維化関連因子の発現も低値でした。

 今回、我々が開発した絆創膏型人工皮膚VitriBandは、生細胞を使用しておらず、長期間の保存が可能であり、随時使用が可能です。粘着テープにより絆創膏同様に誰でも容易に使用する事が出来ます。さらに、再生皮膚組織でしばしば問題となる瘢痕収縮を抑制する作用も有しておりますので、急性期の皮膚欠損治療において革新的な医療機器となる可能性があると考えております。
今後も実用化に向けて、精進を重ねる所存です。

 

[参考文献]

  1. Takezawa T, Ozaki K, Nitani A, Takabayashi C, Shimo-Oka T. Collagen vitrigel: a novel scaffold that can facilitate a three-dimensional culture for reconstructing organoids. Cell Transplant 2004;13(4):463-73.
  2. Aoki S, Takezawa T, Miyazaki-Oshikata A, Ikeda S, Nagase K, Koba S, et al. Collagen vitrigel membrane: a powerful tool for skin regeneration. Inflammation and Regeneration 2014;34(3):117-23.

 

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