高齢者において新たな社会的問題となる創傷「スキン-テア (Skin Tear)」
金沢医科大学看護学部
紺家 千津子
超高齢社会の我が国において、高齢者の褥瘡が社会的問題とされ、診療報酬改定により「褥瘡対策の体制整備」、「褥瘡の対策と発生状況の報告」などが行われるようになった。これを機に、医療従事者のみならず国民にも褥瘡が広く認知される機会となった。しかし、高齢者の新たな社会的問題となる創傷として、腕がベッド柵に当たったときや絆創膏を剥がすときなどに皮膚が裂けたといった通常の療養環境の状況で発生する「スキン-テア(Skin Tear)」が注目されてきている。このスキン-テアは、強い疼痛を伴い、患者とその家族の well being を脅かすだけでなく、医療従事者や介護者の不適切なケア行為により受傷したと、家族が不信感を抱く恐れがある。しかし、この創傷は、十分には知られていない。
スキン-テアとは、摩擦・ずれによって、皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷(部分層損傷)である1)。スキン-テアは、裂傷という摩擦やずれなどによる牽引力によって引き裂かれ、その損傷は真皮深層に留まらず、筋層や臓器に至る創傷とは異なる。本邦では、裂傷と区別するために世界で通用するスキン-テアという用語を用いている。
本邦におけるスキン-テアの実態については、2014年に皮膚科医、形成外科医、筆者を含む皮膚・排泄ケア認定看護師らをメンバーとする日本創傷・オストミー・失禁管理学会学術教育委員会が大規模調査を実施した。この調査により、スキン-テア保有者は75歳以上の高齢者が多く、ステロイド薬や抗凝固薬の使用率および褥瘡発生リスクも高いこと、その創は四肢に多く、創周囲皮膚は乾燥し紫斑を有している割合が高いことが明らかとなった2)。なお、この調査結果と国内外の論文を基に、スキン-テアの予防と創傷管理のためのベストプラクティスを作成し、上記学会HPでも公開している。
ベストプラクティスでは、予防には脆弱な皮膚に対して栄養管理とスキンケア、さらに外力保護ケアが重要とされている。特に、スキンケアでは、保湿剤を1日2回塗布する3)。外力保護ケアでは、四肢を支持する際には掴まずに下から支える、長袖長ズボンの衣服を選択するなどの配慮が必要である。スキン-テアが発生した場合には、組織欠損の程度および皮膚または皮弁の色を観察し、STAR スキンテア分類システムを用いてアセスメントをする。スキン-テアの創管理では、止血、洗浄、創傷の被覆をする。皮弁がある場合には、治癒促進を図るために、疼痛を伴うことを事前に説明してから皮弁を元の位置に戻す。創周囲皮膚も脆弱であるため、被覆材の固定にも粘着力を検討するなど、創傷管理にも様々な配慮が必要である。
最後に、高齢者を気遣って手を握って支えることは、医療施設に限らずどこでも行われる行為である。その行為がスキン-テアを生じさせ、手を差し伸べた人は罪悪感を抱く可能性がある。したがって、今後は発生ゼロを目指し、医療従事者のみならず、国民にもスキン-テアを周知させる活動が不可欠である。さらに、老いを迎えても安心して過ごせるよう、生物学的指標など活用したより科学的な予防ケアへと深化させるための研究が必要であると考えている。
[参考文献]
- 一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会. ベストプラクティス スキン-テア(皮膚裂傷)の予防と管理,
照林社, 2015. - 紺家千津子, 上出良一,真田弘美, 他, ET/WOCN の所属施設におけるスキン-テアの実態調査. 日WOCN会誌,
19, 351-363, 2015. - Carville K, Leslie G, Osseiran-Moisson R, et al., et al., The effectiveness of a twice-daily skin-moisturising regimen for reducing the incidence of skin tears, Int Wound J, 11, 446-453, 2014.