創傷外科医をどのように育てるか -神戸大学形成外科での取り組みと課題-
神戸大学形成外科
榊原俊介 ・ 寺師浩人
神戸大学形成外科では、明確な「〜〜グループ」は存在しません。これは、田原真也初代教授からの、「形成外科医たるもの、まずは全ての分野に精通しなさい。その上で自分の専門を見出しなさい」という哲学が引き継がれているからです。教室に所属する上級医はそれぞれに専門分野を持ち、専門外来を担当しますが、初級医は常に満遍なく患者を担当し、そのエッセンスを学んでいきます。専門性に凝り固まってしまうと思考が狭くなりがちで、学問も発展性を失ってしまう、そんなニュアンスがこの哲学には秘められているのだと思います。
当然、「創傷グループ」は存在しないわけですが、創傷を“専門の一つ”とする複数のスタッフが初級医にinteractionを仕掛けていきます。私たちのinteractionは「なぜ?(関西弁独特のイントネーションでの“なんで?”)」から始まります。例えば、「なんで創部にガーゼをあてるのか?」など、ごくごく当たり前だと思われているところから始まります。このような根本的なところで一度立ち止まり、疑問を持ち(持たされ)、一緒に考えていくことが、いつのまにか創傷外科医としての同じ言語を話すことに繋がるのでは、と期待しています。
創傷外科医の教育は、形成外科医師から形成外科医師へのみ行われるものではないと我々は考えています。皮膚排泄ケア認定看護師(WOCN)との関わりも創傷治療を行う上で切り離せません。毎週木曜日の午後に創傷外来が開設されていますが、ここでは若手医師とWOCN、理学療法士、義肢装具士、薬剤師などのコメディカルスタッフなどが入り混じり、一緒になって診療に携わります。このような他職種とのinteractionもまた、考え方を広げ、新しいアイディアにつながっていくものだと考えています。また、大学病院ならではの環境も大切な教育の場です。よく以前は「大学病院の研修医は…」と言われていました。卒後臨床研修制度が開始されて15年近く経過した今日、相当分、環境は変化しました。当教室において、今なお、医師“のみ”で行なっている事柄は日々の創部の処置でしょうか。処置を医師のみで行うことは良し悪しで、悪き点としては情報の共有がなされにくいことや、処置者と介助者との区別が曖昧になるために感染の水平伝播をきたしやすくなることなどが挙げられます。一方、ベッドサイドまで足を運び、病床での患者さんの過ごし方を見ること、車椅子移乗が必要な患者さんの介助を行うこと、歩行器を使いながら一緒に歩行してみること…など、患者さんに密に接することで学ぶことも多くあります。ここで学ぶことは後にコメディカルスタッフに指導を行う上で説得力を増します。
他診療科の術後創部感染症(SSI)の治療に携わることも創傷外科医が育っていく上で必要不可欠だと考えています。なにぶん、規模の大きな病院になればなるほど診療科の“壁”は厚く高く、風通しが悪いのですが、SSIを通した他科との関わりはこの壁を低くしてくれます。フランクな会話から、様々な診療科の考え方を学ぶことができますし、手術を見せてもらいながら解剖学の知識を深め、その術式ならではのSSIの特徴を知ることができ、また後の再建法を検討する上で貴重な情報を知識として身につけることもできます。何よりフランクな間柄は将来の患者さんにより良いものをお渡しすることに繋がります。食堂で病院長となんの垣根もなく古くからの友人かの如くゴルフの打ち合わせをする、我々の教授の姿…そのような後ろ姿を見ながら教室員は創傷外科医としての一面を成長させていきます。