「創傷治癒コンセンサスドキュメント―手術手技から周術期管理まで―」が出版されて
藤田保健衛生大学 総合消化器外科講師
中村 哲也
2011年夏ごろより本格的に作成が始まった創傷治癒学会ガイドライン作成委員会による、「創傷治癒コンセンサスドキュメント―手術手技から周術期管理まで―」は2016年4月1日に全日本病院出版会より上梓され、およそ一年半が経過しました。2,000部の初刷りから、2017年9月現在、予想をはるかに上回る1,851部を売り上げ、その後1,000部の増刷に入っています。売上内訳としては、学会書籍展示など289部、Amazon.co.jp 526部、その他(書店店頭、全日本病院出版会インターネットサイト、電話注文など)、593部、日本創傷治癒学会購入分443 部、合計1,851部となっています。整形外科、産科婦人科系など、様々な診療科の学会展示販売でも手にとっていただいていること(図1)、また、Amazonでの好調さが示すようにネット顧客層を取り込んでいることから、広い読者層を獲得しているものと思われます。
この本は、各臓器(全身を対象)の手術において、消毒・切開から閉創・術後管理までの現状をまとめ、ガイドラインに準じた指針の作成を目標としています。創傷治癒は、数値化できないartや価値観も重要な要素を占めるため、本ドキュメントはガイドラインでは書きにくいことや、客観的なデータがない意見も扱うのが狙いでした。作成手順としてはまず、日本創傷治癒学会会員のみならず創傷治癒分野の業績のある人に協力を依頼し、創傷治癒コンセンサスドキュメント作成ワーキンググループ(40名)が作られました。このメンバーと創傷治癒学会会員からステートメントを募集したところ、196のステートメント候補が集まりました。第42回日本創傷治癒学会(札幌医科大学 小野一郎会長)で開催された、「臓器手術における創傷治癒コンセンサスセッション」におきまして、ステートメントに対するご意見をいただいた後、99のステートメントに集約しました。このステートメントについて、日本創傷治癒学会会員および創傷治癒コンセンサスドキュメント作成ワーキンググループメンバーにアンケート調査をし、同意の程度と割合が出されました。それぞれのステートメントに関し、どの程度のエビデンスが存在し、どの程度推奨できるかを解説するため、同ワーキンググループや、新たに各テーマの業績のある方に執筆を依頼いたしました。アンケート調査や集計、解析、各ステートメントに対する執筆依頼、校正、編集などをガイドライン委員会メンバー(秋田定伯先生、小川令先生、紺家千津子先生、竹内裕也先生、森本尚樹先生、中村哲也、委員長:吉田昌先生)で行い、執筆者との共同作業で日本創傷治癒学会から出版いたしました。
ガイドライン委員会は、大谷吉秀先生が亡くなられたのちに吉田昌先生に引き継がれたものであり、その時の理事長である北島政樹先生はじめ多くの方の悲願の出版といっても過言ではありませんでした。この本が無事出版され、多くの方に読まれ好評を得ているとのことですので、大谷先生も喜んでいらっしゃるのではないでしょうか。今後は本書に掲載されていない最新の創傷治療(陰圧閉鎖療法や新しい医療材料など)の記述など、さらなる発展を目指す予定としています。
末筆になりましたが、貴志和生先生をはじめ歴代の理事長先生、創傷治癒コンセンサスドキュメント作成ワーキンググループに参加してくださった先生方、各ステートメントに対して執筆をしてくださった先生方、全日本病院出版会の担当の鈴木由子さま、本コンセンサスドキュメント作成に携わったすべての方に感謝申し上げます。