なぜ亜鉛欠乏状態では褥瘡が発生しやすいのか?
―亜鉛欠乏による褥瘡発生機序の解明―
群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学
茂木 精一郎
この度は第49回日本創傷治癒学会において、研究奨励賞という名誉ある賞を頂きまして大変光栄に存じます。日本創傷治癒学会の役員の先生方、そして本研究に協力していただいた群馬大学口腔顎顔面外科学・形成外科学および山梨大学医学部皮膚科学の皆様、当科の研究室の皆様に深謝致します。
私は、創傷治癒、特に褥瘡の病態解明と新規治療法の開発を目指した研究を行ってきました。今回は、亜鉛欠乏状態における褥瘡の発生と悪化の機序を解明することを目的としました。我々は、亜鉛欠乏状態における褥瘡の悪化の機序として、亜鉛欠乏が、褥瘡部位における血管損傷、酸化ストレスおよびアポトーシスを増加させることを見出しました。また、亜鉛欠乏は、ATPを不活性化する分子であるCD39を発現するランゲルハンス細胞の喪失やATP分解酵素の機能低下を誘発し、その結果、褥瘡部位の細胞外ATP量が増加し、炎症が惹起されることも明らかにしました。これらの成果より、褥瘡発生時には血清亜鉛値を測定し、低下している場合は亜鉛の経口補充が褥瘡治療につながる可能性が示唆されました。この受賞を励みに、日本の創傷治癒研究の更なる発展に貢献できればと思います。