研究室紹介
~異分野融合からのイノベーション創出を目指して~

東北大学大学院医学系研究科
看護アセスメント学分野 准教授
菅野 恵美

 このたびは、伝統ある日本創傷治癒学会より、「研究室紹介と看護からの創傷治癒研究の取り組み方」に関する原稿依頼を頂戴し、関係者の先生方には心より御礼申し上げます。

 東北大学は、杜の都仙台にキャンパスがあり、学部、分野を超えたネットワーク構築を推奨している大学です。私は、修士課程修了後、東北大学病院に看護師として勤務した後、2006年東北大学医学部保健学科看護学専攻に教員として異動しました。その際、実験環境も確固たる研究テーマも、何もかも持ち合わせておりませんでしたが、幸運なことに、大学院博士課程より、館正弘先生(形成外科学分野)と川上和義先生(感染分子病態解析学分野)にご指導いただける機会を得ました。このときから早15年、創傷治癒における異分野融合研究に魅了される生活が続いております。

 現在、当研究室に所属する教員は、助教の丹野寛大と私の2名であり、大学院生(博士課程 2名、 修士課程 6名)、学部生 11名の指導に奮闘する日々を過ごしております。マウス病態モデルを用いた解析を主軸とし、カンファレンスや実験は形成外科学分野、感染分子病態解析学分野と連携して進めております。日常的に基礎研究と臨床との間に乖離がないかを微調整しつつ研究を展開できる環境にあります。

 現在、研究室で主に取り組んでいるテーマを3つご紹介します。

1. 「創傷治癒におけるC型レクチン受容体(CLRs)-CARD9シグナル経路の関与」
 Dectin-1 やDectin-2 等のCLRs は、主に真菌成分を認識する受容体として、その機能が解析されておりましたが、ダメージ関連分子パターンとの結合が報告されたため、創傷治癒との関連を検証し始めました。
 解析の結果、CLRs-CARD9 シグナルは、創傷において多くの機能を有しており、これまでに
 1) CARD9 遺伝子欠損マウスにおける創傷治癒の遅延、
 2) 創部の好中球遷延と好中球細胞外トラップ(NETs) 形成へのDectin-2 の関与、
  3) 創傷治癒アクセル役Dectin-1、ブレーキ役Dectin-2 の相反する機能について論文化しております。

2. 「創傷治癒過程におけるNKT細胞機能の解明」
 ナチュラルキラーT(NKT)細胞は、T細胞とNK細胞の特性を併せ持つユニークな細胞であり、我々は創部の好中球集積やサイトカイン産生を調整し、治癒促進に関わることを解明してきました。近年、緑膿菌感染創において、緑膿菌を排除しつつ治癒を促進するNKT細胞機能がマウスモデルの実験から明らかになり、NKT細胞活性化による感染制御法に繋がる可能性が導かれました。

3. 「高分散性ナノ型乳酸菌による難治性創傷の新規治療法開発」
 近年、生きた乳酸菌ではなく加熱後の殺菌乳酸菌の活用が静かなブームとなっております。我々も殺菌乳酸菌を難治性創傷の治療に応用したいと考えました。
 初めに、水分散性の低い通常の殺菌乳酸菌を用いましたが、驚くほどに何の因子も動かず、メンバー全員が落胆しました。諦めきれなかったため、(有)バイオ研より、水分散性の高いナノ型乳酸菌の提供を受け、実験動物の創部に投与したところ、急性創傷に加えて糖尿病性創傷の治癒を促進する結果を得ました。特に、肉芽組織を高める効果が顕著であり、現在、詳細な解析を進めると共に、社会実装に向けて準備を進めております。

 このようなpricelessな環境、恩師・仲間との出会いに心より感謝しつつ、異分野融合研究へのチャレンジを恐れない学生の育成が今後の課題であると感じております。

 さらに、これまで培ってきた知識・技術を応用し、看護師の視点から、治療の過程で生じる有害事象(放射線皮膚炎など)に対する新規ケア法の開発、QOL向上に取り組みたいと考えております。

 転んだら互いに傷を癒しつつ、『掛け合わせからのイノベーション創出』を目指す研究室でありたいと思います。会員の皆様には、引き続きご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

 

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