研究室紹介

兵庫医科大学 形成外科
西本 聡

 兵庫医科大学形成外科は2006年4月に耳鼻咽喉科内診療班から講座として独立しました。当初は6人体制で始まり、私もこの時から参加しています。歴史はまだまだ浅く、比較的新しい教室です。

 診療においては顔面及び四肢の外傷、良性および悪性腫瘍、顔面・体幹・四肢の先天異常、瘢痕・ケロイド、難治性潰瘍の治療など形成外科に関わる疾患を幅広く扱っています。頭頸部・四肢・腹部・乳房の再建術など他科との共同手術も多く、「働き方改革」への対応が非常に難しい状態にあります。

 開講当初から、臨床、基礎分野ともに研究を行ってきましたが、創傷治癒に関する分野はメインテーマの一つです。私自身は当科に参加する以前から“Tissue Engineering” に興味を持っており、表皮、線維芽細胞の培養に始まり、皮膚悪性腫瘍細胞、脂肪間質組織、軟骨細胞、気管上皮細胞、骨髄液中の細胞などを培養した経験がありました。前職中には多血小板血漿(PRP) を顎裂骨移植時に併用し、その効果を実感しました。また骨髄液を濃縮すれば骨髄細胞と血小板を同時に濃縮できます。当時の同僚がこれをbm-PRPと名付けました。狭い顎裂ならばリン酸カルシウムの顆粒にbm-PRPを浸み込ませて移植すれば骨を作ることができていました。その後、兵庫医科大学では放射線障害をはじめとする難治性潰瘍に対してbm-PRPを併用することによる治療を行い、費用対効果の高い結果であると考えていました。これらは患者さんに良い効果をもたらしていたと考えていますが、“再生医療新法” の施行以来、手続き上、また費用の面で現在行えていません。

 PRP、bm-PRPを動物実験で行おうとすると問題が生じました。骨髄細胞に対する実験では犠牲死させたマウスやラットの大腿骨をフラッシュして採取する方法がよく用いられるのですが、血流の途絶えた骨髄内では血小板が活性化し、凝固がはじまってしまいます。活性化する前の状態の血小板を含んだ骨髄液を採取するためには生体から骨髄液を採取する必要がありました。ウサギにおいては大腿骨(鶏の手羽元の骨を思い浮かべてください)を穿刺する方法があるのですが、丸い骨の側面に針を突き立てることはかなり難しいです。ウサギを解剖して様々な方法を探りましたが、腸骨稜に平行に穿刺すると比較的に簡単に骨髄液を採取できました。ウサギでは大腿動脈を摘出することにより慢性虚血肢を作成するモデルがあります。病院本体には皮膚還流圧(skin perfusion pressure: SPP)測定器は導入されていなかった頃に、動物実験施設で購入してウサギのSPPを測定したこともあります。放射線照射された領域の創傷治癒を観察するためにもウサギを使用しました。また、ウサギの橈尺骨は癒合しており、橈骨のみを切断しても体重を支えることができます。ウサギの橈骨をLASERあるいはボーンソーで切断しその創傷治癒を観察したこともあります。サイズが大きいことは創傷治癒の実験をする上では大きなメリットです。

 骨髄液中の血小板については濃度や含まれるサイトカインの量については既報がなく、独自に測定したところ末梢血に含まれるものと差がないことがわかりました。bm-PRPとして利用しようという考え方は当科のオリジナルです。そのほか、カルシウムナノパーティクル、アディポネクチンの創傷治癒への影響、カルシウムチャンネル、Transient Receptor Potential(TRP)と細胞への外力との関係、神経細胞と創傷治癒、陰圧と細胞、細菌の増殖への影響などオリジナリティーの高い研究をしてきました。今後、人工知能の利用なども進めて行ければと考えています。

 創傷治癒に関する研究に対しては狙いをせばめずに動物実験、病理組織、組織染色、モデル実験、分子生理学的手法など目的に応じた手法を用いて研究しています。

研究紹介
第41回日本頭蓋顎顔面外科学会学術集会にて


 

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