理事長再就任にあたり

日本創傷治癒学会理事長
慶應義塾大学形成外科教授
貴志 和生

 皆さん、こんにちは。昨年12月より日本創傷治癒学会の理事長を、拝命いたしました貴志和生です。私は、以前に2015年から2019年にも日本創傷治癒学会の理事長を務めさせていただきました。その後、2023年4月から2025年3月まで日本形成外科学会の理事長を務めておりました。この度、再び日本創傷治癒学会の理事長に就任させていただき、本学会は私にとって大変思い入れのある学会ですので、非常に嬉しく思っております。

 私の自らの母体となる形成外科学は、外から見える変形すべてを元に戻し、さらに美しくすることを期待されています。このため手術のバリエーションが多彩で、定型的な手術は存在しません。どんな組織欠損の再建にも対応せねばならず、このため形成外科医は、毎回創傷治癒と血管解剖・血行動態を勉強し理解したうえで、外科的基本手技を使って自ら考えて皮弁をデザインし手術を行う必要があります。このルールを外すと、皮弁壊死や創離開、創感染などの合併症に繋がります。形成外科のみならず外科系診療科は創傷治癒を基本としていますし、線維化という観点で考えると、ほぼすべての医学分野は創傷治癒を理解する必要があるといっても過言ではありません。その中で、日本創傷治癒学会は世界に存在する創傷治癒を主なテーマとする学会では、現存する中で一番古くからある伝統のある学会です。

 日本創傷治癒学会の素晴らしいところは、多職種の方々が仲良く分け隔てなく、マウントを取りに行くような人はほとんどおらず、お互いの意見を言いあえる環境が出来上がっていることです。私は、自分が教授に就任して以来、組織運営について問われたときには、持ちネタのように日本が誇る十七条憲法の「和を以って貴しと成す」と答えています。漢文で書くと「以和為貴」でこれはほとんど「貴志和生」だからです。ですが、日本創傷治癒学会は「和を以って貴しと成す」をすでに具現化しているのです。このような素晴らしい学会を築き上げてこられたのは、その長い歴史と、集まってきた人たちの人柄の良さなのだと思っています。また、創傷治癒を勉強している人に悪い人はいないというのが私の持論です。なぜかというと、創傷治癒の研究で例えば創傷治癒過程の組織像を顕微鏡で眺めていると、様々な種類の細胞がそれぞれ調和し、助け合いながら無くなった欠損を直してゆく和の過程を目の当りにすることができるからです。そのメカニズムを研究し勉強している人が、その和の世界から外れようと思うはずがない。

 日本創傷治癒学会はこのようにすでに成熟し、出来上がっている学会ですので、私はあえて拡張・発展させようとは思いません。これまでも、団体が大きくなりすぎたがためにまとまりがなくなってしまったり、内部で関係が悪化したりした学会も少なからず経験しています。ずいぶん昔になりますが、私の尊敬する岡田保典元理事長が、私に「日本創傷治癒学会のいいところは、牧歌的な雰囲気があるところだ」と仰っていたのをしみじみ思い出します。利害を抜きに、学問を愛し、患者さんのために考える、そんな学会を維持し、次の世代に引き継いでゆきたいと思います。

 どうぞよろしくお願い致します。

 


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