創傷治癒コンセンサスドキュメント
-手術手技から周術期管理までー 出版準備状況ご報告
ガイドライン委員会担当理事
吉田 昌
創傷治癒コンセンサスドキュメント編集委員会
秋田定伯、小川 令、紺家千津子、竹内裕也、中村哲也、森本尚樹、吉田 昌
図は腹腔鏡補助下幽門側胃切除術後の腹部写真である。手術内容は、リンパ節郭清を伴う、いわゆる「胃の2/3を切除する」手術である。手術瘢痕を目立たなくするために、①手術創は可及的に小さくする。②心窩部(剣状突起下)に切開を置かない。③電気メスの使用は最小限にとどめる。④皮下縫合を置く、などの基本的な事項に注意を払っている。通常の胃癌の手術後の創、腹腔鏡補助下手術の創の状態と比較すれば、図の写真はとても目立たない創と感じると思う。ただ、それを数値化するような客観的な評価法は確立していない。一方で、患者さんの満足度はどうであろうか。「手術をすれば大きな傷がつく」ことを前提として考えている患者さんが見れば、大変満足度は高いのではないか、と想像する。しかし「手術したことがわからない傷」を期待する患者さんから見れば、まだまだ「満足」とはいかないかもしれない。まず、この分野はoutcomeの評価基準が曖昧な分野である。さらに、上記の電気メスの使用、皮下縫合の効果は、いったいどれほどのevidenceがあるのであろうか。「創傷治癒コンセンサスドキュメント」の作成は、客観的なevidenceが存在しないテーマにも言及してゆこうとする試みである。ガイドラインよりも1段階自由に議論することが狙いである。
←図
本書は、編集委員(秋田定伯、小川 令、紺家千津子、竹内裕也、中村哲也、森本尚樹:五十音順)でミーティングをかさね、各臓器(全身を対象)の手術において、消毒・切開から閉創・術後管理までの現状をまとめ、ガイドラインに準じた指針の作成を目標とした。まず、関係学会の学術集会、論文において臓器手術における創傷治癒分野の実績のある方に職種を問わず郵送し、協力を依頼。57名の方をコンセンサスドキュメント作成ワーキンググループとして登録させていただいた。そして、日本創傷治癒学会会員および創傷治癒コンセンサスドキュメント作成ワーキンググループメンバーからステートメントを募集したところ、196のステートメントが集まった。これを、第42回日本創傷治癒学会で開催された、「臓器手術における創傷治癒コンセンサスセッション」を経て、99のステートメントに集約した。この中には、上記、腹腔鏡補助下手術で心がけていること、の検証が含まれた。ステートメント26「電気メスによる切開は、メスなどの鈍的切開よりも創傷治癒が障害される」、ステートメント45「創閉創時には皮下縫合を行ったほうがよい」などである。そのほかにも、結紮の糸は何を選んだほうが良いか、ステープルか縫合か、ドレーンはどのようなタイプがいいか、汚染手術の対応はどのようにするか、瘢痕の質をよくするためのコツ、など、実際の臨床上の素直な疑問に対する答えが見つかる内容になっている。さらに、このステートメントについて、日本創傷治癒学会会員および創傷治癒コンセンサスドキュメント作成ワーキンググループメンバーにアンケート調査をし、同意の程度と割合が出された。それぞれのステートメントに関し、どの程度のエビデンスが存在し、どの程度推奨できるか、執筆者に解説していただいた。本年10月にすべての原稿が入稿され、現在、編集委員会で編集作業中である。通常の依頼原稿と異なり、学会が発行する「コンセンサス」をうたった本であり、編集委員会としてもかなり積極的に原稿内容に変更をお願いする方針でいる。この点におきましては、執筆していただいた先生方や学会の皆さまにご理解いただけますよう、お願いしたく存じます。