神経再生治療を目的とした新規シュワン細胞作製および移植治療の検討
京都府立医科大学医学部 形成外科
素輪 善弘
第45回日本創傷治癒学会学術集会におきまして研究奨励賞を頂きました。自身の生前より長く存続する伝統ある学会においてこのような賞を頂き大変光栄に感じております。ご指導を賜りました諸先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます。
私の研究テーマは末梢神経再生です。シュワン細胞は、神経栄養および神経保護因子の産生、ラミニン等の細胞外マトリックスの産生、ミエリン形成等を行うことにより、末梢神経再生に重要な役割を担っております。外傷に伴う神経欠損や様々なシュワン細胞機能不全症に対して、自家シュワン細胞を移植することができれば理想的な再生医療になると期待されます。しかし神経の採取は患者への侵襲が大きく、どうしても二次的な神経損傷を回避できない、また供給できるシュワン細胞の数が不十分なことが多いといった障害がありました。
そこで当初は、脂肪組織より採取した体性幹細胞をあらかじめシュワン様細胞に分化誘導するアプローチを実践しておりましたが、その機序については不明な点が多く、体性幹細胞は非常にヘテロな細胞集団であり、由来の不明な細胞も混在している可能性があり、臨床における利用においてそのバリデーションにいまだ難があると考えました。一方、ES細胞やiPS細胞は手技の煩雑さや倫理的問題に加えて移植後に残存した多能性細胞が腫瘍化する危険性があります。
最近、心筋細胞や肝細胞などが、線維芽細胞から直接誘導できることが示されております。もし、患者から低侵襲に採取できる線維芽細胞から、シュワン細胞を直接作り出すことができれば、侵襲が低く癌化の危険性も低い、新しい移植用自家シュワン細胞を作り出す技術につながることが期待できます。今回の研究でiPS細胞とは異なるこのDirect reprogrammingという特殊な技法で末梢組織の体細胞から神経再生に有用なシュワン細胞へと直接誘導するカギとなる2つのマスター遺伝子を発見することができました。今後、瘢痕に埋もれた慢性神経損傷(脊髄損傷を含む)部位に、これらの因子を強制発現させることでシュワン細胞に転換させ、神経再生を促進させるといった(In vivo direct reprogramming)夢のような治療の実現を目指していきたいと考えております。これからも精力的に本研究を継続していく所存ですので、皆さまのご指導よろしくお願い申し上げます。