新理事就任のご挨拶
埼玉医科大学形成外科 教授
市岡 滋
このたび伝統ある日本創傷治癒学会の理事に就任させて頂く光栄にあずかりました。本学会発展のため力を尽くす所存であります。
本稿を執筆するにあたり、何を書こうかと過去のニュースレターを見ていました。すると2004年の号に当時慶応大学外科の大谷吉秀先生が本学会の歴史について記載されているのを発見しました。大谷先生とは学会を通じて知り合いでしたが、2005年から埼玉医大外科の教授に就任され、職場を共にすることになり、手術室などで出くわすとよく雑談しました。ご在任中の2007年5月にWOC業界の先駆的存在である当院の上村直子看護師長が急逝され、共に同僚として葬儀に参列したのを鮮明に記憶します。バックナンバーをさらに辿ると2008年10号には国際医療福祉大学・吉田昌先生による大谷先生を悼む記事があります。大谷先生は2008年6月に逝去されました。この執筆準備によって、図らずも埼玉医大における創傷エキスパートの同志を立て続けに失った時を思い出すことになりました。
結局、気の利いたご挨拶は浮かばなかったので、安易ですが自己紹介をさせて頂きます。
外科系は一般に病変を切除する仕事が主であるのに対し、形成外科は造る外科であることに学生時代興味を抱きました。しかし1988年の卒業当時母校の千葉大学には形成外科がなく、東京大学形成外科の門を叩きました。当初の5年間は臨床一筋で全く研究は頭にありませんでした。6年目の人事はどうなるかという頃、ちょうど東大が大学院大学に移行しようとしており、院生の定員充足を求められていました。そこで師匠の波利井清紀教授から大学院を勧められ進学することになりました。
さて大学院生になっても、全くやりたい研究があるわけではありません。波利井教授に相談したところ、先生のボート部先輩で医用電子研究施設(現医用生体工学)の神谷 暸教授が面白そうな研究をされているとのことで紹介頂き、即座に出向研究をすることに決定しました。
そこでの専門はメカニカルストレスに対する生体の適応制御機構という分野で、自分が与えられたテーマは血流に起因するshear stressが血管新生に及ぼす影響の解明でした。そのためには血管新生のプロセスをin vivoで経時的に観察解析する必要がありました。Rabbit ear chamber法という実験モデルがこれに適すると分かり、この技術を得意としていた国立公衆衛生院に数か月通ってマスターし、東大に持ち帰りました。同実験モデルは創傷治癒過程の血管新生を可視化するもので、小生が創傷治癒と交わったはじめです。以降様々な微小循環可視化モデルを考案して、実験に応用するのが自身およびその後の研究グループの武器となりました。
大学院修了後、しばらく東大病院助手を勤め、1998年に埼玉医大講師に着任し、それまでやってきた微小循環・創傷治癒の基礎研究と臨床とをどう繋げるか思案していました。その頃に大浦武彦・北大名誉教授から日本褥瘡学会というものを立ち上げるので参加して発表するよう要請を頂きました。これは先生のご長男・大浦紀彦先生(現杏林大学教授)が東大同門の後輩として小生と同じ専門を選んでいたこともあり、お声がけがあったと思っています。
臨床ではまず褥瘡治療を専門とし、関連した基礎研究も進めていくうちに生活習慣病の蔓延で糖尿病足潰瘍や重症下肢虚血などが増加してきました。渉猟する範囲は褥瘡のみでなく難治性創傷全般および下肢を切断から救うLimb Salvageに拡がりました。そこでは高度な横断的チーム医療と産学共同の取り組みを要するため、看護領域をはじめとする多様な専門の先生方や医療産業界と共に仕事をするたくさんの機会に恵まれつつ現在に至ります。